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▼稽古始め視察記

稽古始め視察記/
29日・・小雨の中、成田若宮八幡神社の例大祭に向けての稽古が始まった

獅子頭新調のために拝借していた、最古の平吹獅子と弊社制作の獅子頭を社務所に搬入した

既に獅子連中はキビキビと準備を始めている

連中の頭は社務所中央に鎮座し、若い衆の指示対応を行っていた

頭はいちいち細かく指示する訳ではなく、若い衆が黙々と段取りして行くのだ

やがて歴代四獅子頭のお清めだ






成田の獅子頭は、いつも綺麗に管理されて見事だ

例祭の天候により、獅子頭を交代させたり獅子舞の前後には清酒で獅子頭を必ず磨く

若い衆達の役目で、獅子頭に対する愛着や獅子頭の破損・・僅かなヒビを見逃さない

徹底ぶりなのだ

私も祭り後に何度も呼ばれ、破損の検証を行っている

小さな破損で発見し修理すれば損害は少なくて済むという管理を伝統としている






拝殿の前にて稽古が開始される

一週間、重い獅子頭を振って出獅子の稽古を行うそうだ

頭に乗せる事無く、主に腕力で7kg程の負荷により筋肉を慣らす
腰を深く下ろし、腕を突っ張る

摺り足で獅子頭の遠心力に耐えながら獅子の早る様を現している様だ





拝殿前は四畳程で、けっして広い場所でないが交代のため若い衆が取り囲み注視する中

先輩の叱咤と激励が飛ぶ

相撲のぶつかり稽古を思わせるような迫力と緊迫感だ



後半になると相撲が立ち、獅子が境内に出る場面の稽古になった

早く境内に出たいとばかりに相撲の左肩から獅子頭が飛び出す所作が独特だ

相撲がまだ早いとばかり押し返す

「あげろ!」と相撲の大声で襟首を掴まれた獅子は境内に放たれる・・・



相撲は今年の春祭りから20数年ぶりで交代した若者であるが、傍目ではもうベテランの

風格と威厳を醸しているようだ

これから成田の名相撲を目指し精進して戴きたい





さて、頭の計らいで秘蔵の品を拝見した


一つは謎の獅子の顎、安政六年の古い獅子幕、車牛の化粧廻しだ





以前から獅子箱に顎だけが一つ残ってあると聞いていた

成田の獅子頭の中に異彩を放つ獅子頭がある

文久年間に作られた梅津弥兵衛と思われる獅子頭だ

今は稽古獅子として活躍中なのだが、小振りで重く風貌が平吹獅子と少し異なる

顎も小振りで重く栃材だろう・・

合わせてみるとやはりサイズや形も似ている

破損の為に顎だけ新しく作り替えられたのだろうと考える




次は安政六年(1859年)と記された156年前の獅子幕である

保存状態も誠に良い・・・継ぎ接ぎを施され大事に修繕された様子が残っている

勿論手縫いなので、大変な手間隙がかかっている




藍染め筒描きの手の混んだ波浪模様も見事である

今は見られない大波や渦巻きの表現も素晴らしい

工藝的にも優れた文化財だ







また昭和初期の獅子幕も見事である  高畠の染め屋の記名が珍しい






獅子頭と共に門外不出の秘宝なのだが、地元や多くの方々にご覧戴く機会を

企画したいものである





最後は車牛の化粧回しだ

牛車と良く間違うのでご注意されたい

毛氈やビロウドや金糸銀糸で作られた本格的な廻しである

伊佐沢神社に伝わる「花筏」の化粧回しを彷彿させる様式だった



稽古を少し早く終えて初日の祝の儀が執り行われた

二十畳ほどの社務所の中央に足を折り畳んだままの会議用座卓を一文字に並べ対座する

座る順番は頭と小頭をはじめ、年功序列ではない獅子連中に入会した順となる


獅子頭にお神酒を供え、一同一礼しその茶碗のお神酒を順に呑み交わすのだ

最後の若い衆にくるとUターンして戻って来て獅子頭に帰る

神社式参拝の二礼二拍手一礼ではなく、仏式の参拝でない所に気づく

獅子舞いは仏教と密接であり、修験道廃止や神仏分離令で引き離されたが

その名残であろうか?

続いて頭、小頭、相撲の順で挨拶があり、持ち寄った肴で酒宴が始まった

いやいや皆様、気持ちよく飲むこと飲むこと

私もお相伴し、その雰囲気に連れ許容範囲以上のお酒を戴いてしまった

久しぶりに酩酊状態・・・

気がつくと夜中一時を回っていて、大の字で伸びている若い衆も数人居る

その中で若い衆が酒の補充や片付けに軽快に立ち振る舞う様子に感心しきりだ



成田のお祭りは獅子舞を中心として獅子連はもとより、総代組織、地域一帯が融合し強く結び

合って継承している様子がうかがえる

個々の獅子舞の稽古を通して精神と身体を高めて行く修行でもある

その中には妙な気負いも無く、互いに信頼し尊重している姿は羨む程だった

長い年月を経て研ぎすまされた成田の獅子舞いの伝統は、変わる事無く最上川のごとく悠々と

流れていた
2015/08/31 08:41 (C) 獅子宿燻亭4
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