▼『彫刻風土の秋祭』で、彫刻を「みぞおち」で感じること2006/11/10 08:35 (C) 美術館大学構想
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写真上:「CASTING IRON-ASAHIMACHI06-」の記録。5tの鉄が落下する瞬間。
写真中:落下直後、地面に沈み込んだ鋳鉄のまわりに集まる人々。
写真下:人々のざわめきが去った後、鉄は静かに校舎を背にして秋の広場に佇む。
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5tの鉄塊が空から大地へ舞い降りた日、10月29日・日曜は西雅秋さん60歳(還暦!)の誕生日でした。
西さんは「日本では人間は60歳を過ぎるともう一度子どもに還るんだ」といってこの大胆な作品『CASTING IRON』の公開設置におおいに意欲的で、かの5tの鉄塊は、林檎とワインで有名な山形県朝日町の小さな廃校で、彫刻家の無邪気な「生まれ変わりの儀」を祝うために、福井県金津市の公園から掘り出され、140名の人々に見守る中、苔むした雪国のグラウンドに着地しました。
この日は午前中から25tクレーンがけたたましい音を立てて鉄板を敷いたり、続々と車で乗りつけてくる学生たちがグランドで童心にかえり、奇声をあげて走り回ったりして、普段は静かな地区は非日常の喧騒に包まれましたが、「何事か」と散歩ついでに様子を見に来るお年寄りの皆さんは意外に好意的で、あるお婆さんは、僕と西さんが「すみません、今日はちょっとお騒がせします」と声をかけると、農作業の手を止めて、立派な白菜をくださいました。
このプロジェクトの実行にあたっては、立案当初から朝日町役場や立木地区の方々にご心配をおかけし(何しろ破壊の先入観が強い作品なので、、、)当日は周辺地域の方々の反応が懸念されましたが、実際はご年配の方々から子どもたち、役場の方々、朝日町長さんまで、実に沢山の地元の方々にお越しいただきました。
落下予定時刻の30分前には、人々が学校に集まりはじめ、巨大なクレーンと不穏な鉄のカタマリを遠巻きに眺めています。
若干ぎこちない雰囲気の中、旧立木小学校を根城に作家活動を続ける若きアーティスト集団「あとりえマサト」の板垣敬子さんが、ぬけるような爽やかな秋晴れのもと進みでてマイクを握ると、落下ポイント近くのグラウンドに自然に人々の輪が生まれ、さながら収穫後の秋の田んぼで催される村祭のような恰好になりました。
板垣さんからマイクを手渡された町長さんがおっしゃるには「こんなに大勢の若い人たちが、この立木地区に集まったことは、ここ十数年、久しくなかったことでした」とのこと。話をしている間にもひっきりなしに学生たちの車が到着「やれ、まだ落ちていないぞ、間に合った」と小走りで集まってきます。
さて、その落下の瞬間。
衝撃は足下に伝わるというよりも、楔を打ち込まれたような感覚が、視覚的インパクトを通過してみぞおちに「溜まる」感じで、しばらくのあいだ体内にとどまっていました。
少し高台の方から観ていた人は「瞬間、地面が液状化現象のように波打った」といい、近くで寝転んで観ていた人は「ズンという振動がダイレクトに伝わった」と語り、必死でカメラをかまえていた人は「ファインダー越しではなく、撮影をあきらめて直接観ようかと迷っているうちに落ちてしまった」と悔しがっていました。
思わず「あーっ!」と声を上げた人、笑い声をあげた人、衝撃に眼を見張らせたままの人、感動して涙をこぼした人・・・反応は千差万別でしたが『CASTING IRON』が生み出した振動は、そこに立ち合った約140人の身体に、忘れ難い記憶として刻み込まれたに違いありません。
「集まってくるときは無表情で、帰っていくときは満面の笑みだった」というのは、駐車スペースの交通整理に奔走してくださった『あとりえマサト』メンバーの版画家・三浦さんの談。
西さんの奥さん、お母様、2人の息子さんとそれぞれのパートナーが、この記念すべき瞬間を祝うため東京から集まり、前日のシンポジウムで司会を務められた酒井忠康先生も息子さんと娘さん同伴で朝日町まで足を伸ばされました。
様々な立場と世代の人々が、たった5分間の「鉄の落下」ために小さな谷間の広場に集まったという事実が、感動的というよりも、平穏で懐かしい、昔話の一場面のように思われたのでした。
宮本武典/美術館大学構想室学芸員
↓大学HPに『西雅秋-彫刻風土-』展ボランティア・レポートが掲載されています!
http://www.tuad.ac.jp/community/backnumberfiles/06-10/special/special.html